稀代のヒットメーカー 筒美京平氏を偲ぶ。

「木綿のハンカチーフ」
「たそがれマイ・ラヴ」
「飛んでイスタンブール」
「17才」
「19:00の街」
「セクシャルバイオレットNo.1」
「なんてたってアイドル」
「スニーカーぶる~す」
「シンデレラハネムーン」
そして、「よろしく哀愁」。

筒美氏は大学時代ジャズをやっていて、それまでの歌謡曲や演歌はあまり好きではなたったらしい。レコード会社に就職したときも「邦楽はイヤ」と洋楽ディレクターになったほどだ。なるほど大ヒットしたこれらの曲にはロック、フュージョン、ジャズ、ファンク、ディスコなどのテイストや、ホーンやストリングスのアレンジ、曲の構造の複雑さなど洋画の要素が見られ、その頃中学生で洋楽にハマった僕もそのテイストが気に入ったわけだ。(例えば78年の岩崎宏美の「シンデレラハネムーン」、桜田淳子の「リップスティック」はまさに同年のヒット映画『サタデーナイト・フィーバー』の影響だし、81年の近藤真彦『ギンギラギンにさりげなく』のベースラインはロッド・スチュワートの『アイム・セクシー』とクリソツ。大橋純子の「たそがれマイ・ラブ」に至ってはドゥービーブラザーズの「You Belong To Be」を彷彿とさせるのだ)。

写真の書籍は、『筒美京平ヒット-ストーリー1967-1998』(白夜書房1998年刊)。当時、店長だった往来堂書店で平積み重点販売した一冊。2800円ながら確か7冊くらい売った。訃報を聞いて読み返してみると新たな発見がいくつもあった。例えば、桑名正博のソロデビューにあたってリズムセクションに高中正義(G)、後藤次利(B)、高橋幸宏(D)のサディスティック・ミカ・バンドのメンバーを起用していたとか、作詞家・松本 隆とのコラボは400曲。まさに日本のレノン&マッカートニー!とか。

この本の監修者も巻頭句でこう述べている。

「筒美京平の魅力は実は解析不可能なのかもしれない。(中略) 筒美京平は常に我々を魅了し続けてきた。頭脳と肉体の同時に刺激する音楽。心を直撃する音楽。筒美京平サウンドこそが世界で最も官能的な音楽なのではないかと思う。いったい筒美京平とは誰なのだろう。どのようにして筒美京平の音楽は生み出されるのだろう。どうして筒美京平の音楽は人のこころをとらえて離さないのだろう。」

日本ポップス史上最強のコンポーザー筒美京平氏死去のニュースは、若い人や音楽に関心がない人はスルーなのだろうけど、僕の世代や洋楽ファンには振り返えざるを得ないニュース。曲を楽しむ以外に僕が筒美氏から学んだのは、ヒットメーカーでありながら新しい事業をプロデュースしていくような姿勢だ。書籍の本人インタビューでもこう述べている。

「僕の場合は、自分の音楽性やオリジナリティを出すことより、どこか新しい曲になっていないと意味がないということが、なんとなく自分の良心みたいになっていたんだと思います。流行り歌というベースの中に、どうやって新しいアイディアを盛り込むということが」(筒美氏談)

僕がやってきたこと⇒メディアや書店づくり、NPOの経営、PTAの運営・・・これまでに全くないものを作り出すというより、「読者や客やメンバーが、より共感して楽しんでくれる場づくりとは?」というリニューアルの観点。そして出会った人のポテンシャルを最大限に引き出し育てようとする「優しさ」のようなものだ。また、どんな仕事を始めるときも「メロディー、リズム、ハーモニー」の音楽3原則をいつも意識するようになったり、「この仕事は誰をロックできるのか?」という考え方も、筒美氏の影響かもしれない。

今日のラジオは朝から筒美京平の曲がずっと流れている。いい時代に生まれたと思う。筒美京平の音楽の在り方が革新的かつ刺激的であったように、僕らも「絵本ライブ」のように新しいスタイルを、新しい遊びをもっと展開することができたらいいなと思う。

秋の陽だまりの中で、筒美京平さんを偲びながら。

2020年10月13日