「子どもの育ち」を応援する「笑っている父親」を増やす

「子どもの育ち」を応援する「笑っている父親」を増やす

「子育て支援」という言葉がしっくり来ない。ずっとそうだった。子育ての主役は「親」ではなく「子ども」のはず。子の育ちを見守り、人として自立させるのが子育ての目的ではないか。「子育て支援」ではなく「子育ち応援」なのではないか。ずっとそう考えてきた。

私自身も3人の子どもを育ててきた(現在:23歳、20歳、13歳)。一番上はこの春、社会人となって家を出た。あとの二人は学生で、同居なので経済的自立は果たしていないが、いつかは家を出ていくのだろうと思っている。

最初の子のときはどの親も陥るように不安と戸惑いの中での子育てだった。ただ2人目~3人目とだんだん肩のチカラが抜けて楽になった。経験を積んだことが大きいのだろうが、「父親の育児」が社会化されてきたという環境面もあると思う。

私たち夫婦は共働きのため、二人でチカラを合わせて子育てをしてきた。ただ妻に言わせると「あなたが仕事で帰ってこないあの時期、ほぼ独りきりで辛かった」と今でもよく言われる。刷り込まれた役割分業意識の影響は大で、実際「育児家事やるよ」と言っておきながら妻の希望に適わず、仕事との両立もままならず目に見えないプレッシャーに焦る自分が3~4年はいたように思う。ただ逃げることなく単純で泥臭い育児家事の作業をしつつ、「どうせやるなら楽しみたい」という意識から「絵本」という子どもとのコミュニケーションツールを獲得したことで、子育てが楽しいと思えるようになり、地域にも出て行ったのである。

この「父親を楽しむ!」という考え方・やり方を世の中に広めることはできないか。仕事も育児も程よいバランスで楽しむ「笑っている父親」を増やすことで、母親がラクになって子どもの養育にもプラス効果がでる。DVや虐待がない社会になる。またワークライフ・バランスにも繋がり、子どもが産み育てやすい社会に変わるのではないかと考えて活動してきた。

あれから15年。「イクメン」という言葉も登場し、育児に積極的な男性は増えたと思う。しかしまだ少数派かもしれないし、「ワンオペ育児」「取るだけ育休」などという言葉が出る状況からして、父親育児の量だけでなく「質」の向上は未だ大きな課題だ。国の調査でも、父親の一日の平均育児時間は母親の四分の一以下なのだ。

子どもの健やかな養育のためにも社会はこの課題にもっと真剣に取り組むべきだ。親と暮らせない子どもには社会的養護の拡充が求められるが、そうなる前の予防も大事だ。共働き家庭が増えている昨今、夫の会社も子育てを支援する職場でないと夫婦で協力し合えない。「残業で子どもの寝顔しか見られない」「育休が取りづらい」という父親たちからの声もあれば、「育児における父親の重要性を父親たちに教えてほしい」、「夫の職場を変えて欲しい」という母親たちの意見もある。父親への支援こそが、最大の母親支援・子ども支援になるのだ。

現代では社会情勢への不安からなのか、子育てが子どもの成長を「見守る」ことから、過度に「育てる」ことにシフトしてしまい、精神的にしんどい子どもが増えてしまった感がある。ユニセフの調査でも日本の子どもの精神的幸福度は、38か国中37位と最低レベルだった。

何度も言う。子育ての主役は「親」ではなく「子ども」。「子育て」ではなく「子育ち」。母親を幸せにし、子どもが笑顔で自立できる環境を作ることこそが、父親の役割であり、喜びなのだ。

※この原稿は雑誌『チャイルドヘルス』2021年8月号(診断と治療社)に掲載されたものです。